ネットでの悪質な誹謗中傷で問われる可能性のある罪とは?
SNS上で他人を攻撃する投稿が行われるのも珍しい現象ではなくなっています。そのため当人は軽い気持ちで書き込んだつもりでも、その行為がきっかけとなり刑事罰を受けることもあるのです。
当記事ではネット上の誹謗中傷がどのような罪に該当する可能性があるのかを紹介していますので、何罪に当てはまるのか、具体的にどのようなケースに成立するのかを見ていきましょう。
名誉毀損罪
ネット上の誹謗中傷が該当する罪のうち典型例といえるのが「名誉毀損罪」です。
この罪は「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者」に対して成立し、非常に悪質なケースでは3年の拘禁刑を科すことも予定されています。
※2025年6月からは、従来の「懲役刑」および「禁錮刑」が一本化され、新たに「拘禁刑」という刑罰になった。
(名誉毀損)
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
罪が成立する具体例
次の3つの要件を満たすことで名誉毀損罪は成立します。
名誉毀損罪の3つの要件 | |
|---|---|
公然性がある | ・不特定または多数の人が認識できる状況を指す。 ・SNSや掲示板への投稿は公然性を満たし、実際のフォロワー数や閲覧者数は問われない。 ・アカウントが非公開設定であっても、複数人が閲覧できる状態であれば公然性が認められる可能性がある。 |
事実を摘示した | ・社会的評価を低下し得る具体的事実を挙げることを指す。 ・真偽は問われないため、たとえ真実であっても名誉毀損罪は成立する可能性がある。 ※真実かつ公共の利害に関する事実で、さらに公益を図る目的もあるときは処罰されない(免責事由)。 |
名誉を毀損した | ・実際に社会的評価が下がったことまでは求められず、その危険を生じさせることで成立する。 ・実害がなくても犯罪として成立し得る。 |
以上を踏まえると、たとえば「○○社の社長は脱税をしている」「○○さんは前科持ちだからかかわらないほうがいい」などの投稿をした者には名誉毀損罪が成立する可能性があるといえるでしょう。
ただし名誉毀損罪は親告罪ですので、被害者からの告訴がなければ起訴できません。
侮辱罪
侮辱罪は、公然と他人を侮辱することで成立する罪です。
(侮辱)
第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、一年以下の拘禁刑若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
侮辱罪に対しては、軽い罪と捉えている方も多いのではないでしょうか。たしかに名誉毀損罪と比べれば法定刑も軽く設定されていますが、拘禁刑も予定されているため場合によっては刑務所への収容もあり得る罪です。
罪が成立する具体例
侮辱罪の成立には①公然性と②侮辱行為の2つの要件が必要で、「具体的な事実の摘示」が必要とされない点が名誉毀損罪との決定的な違いといえるでしょう。
なお、公然性については名誉毀損罪同様で、不特定または多数が閲覧可能な状況を指します。SNSの投稿、掲示板への書き込み、ブログでの発言などは公然性を基本的に満たします。
侮辱行為に関しては、「人の人格的価値を否定し、軽蔑する表現を行うこと」と説明できます。具体的な事実を示さなくても、抽象的な悪口や罵倒(「バカ」「まぬけ」「死ね」など)を行うだけでも成立する可能性があるということです。
脅迫罪
脅迫罪は、危害を加えることを伝えて他人を脅す行為に対して成立する罪です。
(脅迫)
第二百二十二条 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。
条文にあるとおり、告知を受ける本人に対するものでなくとも、その方の親族に危害を加える旨を告知する行為でも成立する可能性があります(第2項)。
また、法定刑は侮辱罪よりも重く、最大で2年の拘禁刑を科すことが予定されています。
罪が成立する具体例
脅迫罪の成立には①害悪の告知と②脅迫の意思が必要です。
- 害悪の告知・・・命や身体への危害(「殺すぞ」「殴るぞ」など)、そのほか自由・名誉・財産を対象とした具体的な危害(「家を燃やすぞ」「会社を爆破する」など)を予告することでも該当する。
- 脅迫の意思・・・相手を畏怖させる目的で害悪を告知すること。冗談や比喩表現であっても、客観的に見て恐怖を感じるような内容であれば成立し得る。
なお、脅迫罪は被害届がなくても起訴できる非親告罪であり、被害者本人が告訴をしなくても起訴され有罪判決を受ける可能性があります。
業務妨害罪および信用毀損罪
業務妨害罪と信用毀損罪は次に示すとおり同じ条文で規定された犯罪です。
(信用毀損及び業務妨害)
第二百三十三条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
いずれも、嘘の情報を投稿した結果、成立する可能性があります。
罪が成立する具体例
業務妨害罪や信用毀損罪が成立するのは、たとえば「飲食店○○で食中毒が発生した」「○○社の製品は危険」などと虚偽や根拠のない情報を広めて客足を遠のかせる、売上を減少させる行為、「○○で買ったパンにカビが生えていた」「○○社は破産寸前で危険」などの情報を流布して会社や人の経済的信用を損なう行為などです。
その他の関連する罪名
ほかにも、誹謗中傷に伴い金銭の要求まで行っているときには「恐喝罪」が成立する可能性があります。
SNSで執拗にメッセージの送信を繰り返す行為などが「ストーカー規制法違反」となることもありますし、性的な画像を拡散する行為を伴うことで「リベンジポルノ防止法違反」に該当することもあります。
誹謗中傷に対する厳罰化の流れがある
近年、ネットでの誹謗中傷による被害も多く発生していることから、法制度の改正による厳罰化が進んでいます。
そのわかりやすい例として、「侮辱罪の法定刑の引き上げ」が挙げられます。
従来、侮辱罪の法定刑は「拘留または科料」とされていたのですが、上述のとおり現行法では拘禁刑や罰金刑も科すことが可能となっています。
また法務省では「侮辱罪の事例集」を公表していますので、こちらから実際に起こった事案の概要と裁判結果まで確認することもできます。
法務省:「侮辱罪の事例集」
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福井弁護士会(登録番号50544)河野 哲(こおの さとる)
官公庁及び上場企業での勤務経験があり、企業勤務時に使命感を抱き弁護士を志した異色の弁護士です。既成概念にとらわれない柔軟な発想と「弁護士はサービス業」というご依頼者様目線の業務を心掛けています。
経歴
- 京都大学水産学科、京都大学ロースクール卒。
- リクルート、京都市役所、日本輸送機(現三菱ロジスネクスト)などでの勤務を経て、2014年弁護士登録。
- 奈良県の法律事務所、福井県のさいわい法律事務所を経て、二の宮法律事務所設立。
Office事務所概要
| 事務所名 | 二の宮法律事務所 |
|---|---|
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