【改正法施行】不同意わいせつ罪と旧強制わいせつ罪の違いを解説
2023年に施行された改正法によって、性犯罪についての枠組みが変わっています。
たとえば「不同意わいせつ罪」の創設です。これは従来のわいせつ罪が見直されたものといえます。
名称が変わっただけではなく犯罪として成立するための要件や処罰の範囲なども変更されていますので、あらためて認識し直す必要があるでしょう。
ここではその違い、変更点を解説しています。
旧制度の問題点
旧法にあった強制わいせつ罪では「暴行または脅迫を使ってわいせつな行為をした者」や「13歳未満に対してわいせつな行為をした者」を処罰する旨が定められていました。
つまり旧法では、13歳以上への行為に、暴行(殴ったり押さえつけたり)や脅迫(おどすなど)という手段が伴わなければ強制わいせつ罪として処罰できない状態にあったのです。
「暴行」の解釈は裁判上広く解釈されてはいたものの、この要件に該当しない状況下で起こった性被害を適切に処罰できないケースもありました。
たとえば、具体的な接触はないものの被害者が恐怖を感じて動けなくなってしまうケースです。また、社会的な立場の違いによる心理的圧迫を受けて同意できない状況なども、旧法で適切に対応できていませんでした。さらに、睡眠中や酩酊状態の被害者への犯行に対しては「準強制わいせつ罪」で対応していましたが、同罪の要件である「心神喪失または抗拒不能」の解釈が難しく、この点も問題視されていました。
《 問題になりやすかった行為例 》
- お酒で酔わせて同意を得たように見せかける
- 上司と部下の立場を利用して断りにくくする
- 突然触って驚かせて抵抗できないようにする
法改正で変わったこと
2023年の法改正を経て新たに設けられた「不同意わいせつ罪」は、旧法の「強制わいせつ罪」と「準強制わいせつ罪」を統合したものといえます。
ただし、単純に1つの罪としてまとめたわけではなく、上記問題点を解決するよう次のような変化がありました。
8類型で具体化した
新設された不同意わいせつ罪では、一定の行為や事由により「不同意の意思を示すこと、またはその意思の形成が困難な状態」を生じさせたときに同罪が成立するものと定められました。そしてその行為や事由は次のように8つの類型で明記されています。
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
言い換えると、次のような行為があり被害者が「嫌だ」といえない状況にあれば罪として成立する可能性があるということです。
《 8類型の具体例 》
- 力や脅しを使う
- 腕を掴んで無理やり触る
- 壁に押し付けてキスを強要する など
- 心身の不調を利用する
- ケガで動けない人に触る
- 高熱で寝込んでいる人に性的な接触をする など
- お酒や薬で判断力を奪う
- 飲み会で意識が朦朧としている人に手を出す
- 処方薬を多く飲ませて意識がぼんやりした状態で体を触る など
- 睡眠や意識不明を利用する
- 寝ている間に下着を触る
- 麻酔手術の後、目覚める前に身体を触る など
- 突然の行動で対応不能にする
- エレベーターでいきなり抱きつく
- 混雑した電車内で不意に体を密着させる など
- 予期せぬ事態で恐怖を与える
- 暗い路地でいきなり服をめくる
- 自宅に突然押しかけて部屋に閉じ込める など
- 過去の虐待トラウマを利用する
- 虐待経験のある人を心理的に追い詰める
- 「また同じ目に遭いたくなければ言うことを聞け」と過去の被害をほのめかす など
- 立場の優位性を悪用する
- 上司が「クビにする」と脅してセクハラを行う
- スポーツコーチが「レギュラーから外すぞ」と選手に迫る など
- 力や脅しを使う
このように多様な類型を設けることで、現代社会における性的被害の多様性を反映し、従来の枠組みだと捉えきれなかった被害状況に対応することを目的にしています。
同意に関わらず処罰する年齢の引き上げ
旧法では「13歳未満」に限定して、同意の有無に関わらず強制わいせつ罪で処罰するものと定めてありました。
しかし改正後はこの年齢が「16歳未満」へと引き上げられています。つまり、13歳・14歳・15歳の被害者が仮に同意を示していたとしても、罪が成立し得るということです。上記の8つの類型に該当しなくても、一律に処罰されます。12歳以下を対象とする場合も同様です。
ただし、被害者が13歳~16歳未満であって、かつ行為者がその被害者と5歳以上離れていないときは適用されません。
※年が近い場合でも上記8類型に該当するときは原則通り処罰の対象。
被害者 | 行為者 | 適用関係 |
---|---|---|
12歳 | 16歳 | ・同意があっても一律に処罰対象 ・年齢差は関係なし |
14歳 | 18歳 | ・同意がなく8類型に該当すれば処罰対象 ・年齢差がここでは「4歳差」のため、例外規定により処罰されない場合もある |
14歳 | 19歳 | ・同意があっても一律に処罰対象 ・年齢差が「5歳以上」のため、例外なく処罰対象 |
15歳 | 16歳 | ・同意がなく8類型に該当すれば処罰対象 ・年齢差が「1歳差」のため、例外規定により処罰されない場合もある |
15歳 | 20歳 | ・同意があっても一律に処罰対象 ・年齢差が「5歳以上」のため、例外なく処罰対象 |
16歳 | 18歳 | ・同意がなく8類型に該当すれば処罰対象 ・16歳以上は年齢規定の対象外 |
配偶者間でも適用されることが明記された
改正後は、結婚しているかどうかに関係なく同罪が成立します。
つまり、配偶者やパートナー間においても不同意わいせつ罪が成り立つことが明確になりました。旧法でも配偶者間で犯罪成立の可能性はありましたが、実際のところ立件や処罰が難しいケースがありました。
しかし新法で明文化されたことによって、配偶者間であっても同意がないときは犯罪として処罰されやすくなったといえるでしょう。
今まで「夫婦ならOK」「交際中ならOK」などと安易に考えられがちだったケースでも対象になりましたので、DV被害の救済につながる大きな変更といえます。
誤信や人違いに基づく行為にも適用される
不同意わいせつ罪に関しては、次の規定も置かれています。
行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。
この規定は、医療行為やマッサージなどの正当な行為を装った行為、別人になりすました行為なども処罰対象とするためのルールです。
旧法だと準強制わいせつ罪で対処するケースもありましたが、そうすると「心神喪失又は抗拒不能」の要件に該当する必要があったため、適切に処罰するのが難しい状況にありました。
しかし新たに設けられたこの規定により、被害者の誤解・勘違いを悪用した行為でも犯罪になることが明確になりました。
より広く法的保護を受けられるようになった
以上が法改正前後で変わった主な違いです。総括すると、より多くの被害者が法的保護を受けられるようになったといえるでしょう。
この改正によってすべての被害者が救済されるようになったわけではありませんが、旧法に比べるとさまざまな手口に対応できるように変わっています。
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福井弁護士会(登録番号50544)河野 哲(こおの さとる)
官公庁及び上場企業での勤務経験があり、企業勤務時に使命感を抱き弁護士を志した異色の弁護士です。既成概念にとらわれない柔軟な発想と「弁護士はサービス業」というご依頼者様目線の業務を心掛けています。
経歴
- 京都大学水産学科、京都大学ロースクール卒。
- リクルート、京都市役所、日本輸送機(現三菱ロジスネクスト)などでの勤務を経て、2014年弁護士登録。
- 奈良県の法律事務所、福井県のさいわい法律事務所を経て、二の宮法律事務所設立。
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