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【2025年6月施行】懲役と禁錮が一本化した拘禁刑とは?

2025年61日、刑事制度に大きな変化がありました。

これまで使われてきた「懲役」と「禁錮」という刑罰が廃止され、新しく「拘禁」という刑罰の運用が始まったのです。

この変更は明治時代に刑法ができて以来の大きな改正です。

単に名前が変わっただけでなく、刑務所での過ごし方や更生への取り組みが根本的に見直されることになりました。

なぜ変える必要があったのか、何がどのように変わったのか、要点をここで解説します。

これまでの懲役と禁錮の違いと問題点

懲役は「刑務所に入れて決められた作業をさせる刑罰」で、禁錮は「刑務所に入れるだけで作業の義務はない刑罰」というものでした。

 

しかし実際にはほとんどの禁錮受刑者が自ら希望して作業を行っており、両者の違いはあまりなくなっていたのが実情でした。

また、刑事裁判で禁錮刑が科される割合は懲役刑に比べても極端に小さく、禁錮刑の存在意義は薄れてしまっていたのです。

 

ほかにも従来の制度は、次のような問題を抱えていました。

 

  • 懲役刑では・・・作業が必須とされ、高齢で体力が衰えた受刑者や薬物依存の治療が必要な受刑者でも、一律に作業をしなければならなかった。受刑者が個別に本当とする指導や治療を十分に受ける時間が確保できていなかった。
  • 禁錮刑では・・・本人が希望しない限り作業をさせることができず、社会復帰に有益な作業があっても実施ができなかった。

拘禁刑の創設で変わること

受刑者一人ひとりの状況に応じて柔軟に対応できるようにし、上のような問題を解決するため、法改正により新しく「拘禁刑」が設けられました。

 

(拘禁刑)
第十二条 拘禁刑は、無期及び有期とし、有期拘禁刑は、一月以上二十年以下とする。
2 拘禁刑は、刑事施設に拘置する。
3 拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる。

引用:e-Gov法令検索 刑法第12

大きく変わったポイントは、「これまで一律で実施するものとされてきた作業義務の排除」と、「個別対応のため細かく処遇課程を新設した」ということにあります。

作業が義務ではなくなった

もっとも大きな変化は「作業が義務ではなくなった」という点です。

一律で作業が義務付けられることはなく、その人にとって何が必要かを判断して処遇内容を決めることができるようになりました。

例)薬物依存の人には依存症治療プログラムを受けてもらう、高齢者には身体機能の維持訓練を受けてもらう、若い人には教育や職業訓練を受けてもらう、など個々の特性に応じたプログラムが用意されている。

24の処遇課程で個別対応が可能になった

拘禁刑では、受刑者を24の「矯正処遇課程」に分類し、それぞれに適した処遇を実施します。

 

たとえば、薬物事犯の人であれば「依存症回復処遇課程」、高齢者であれば「高齢福祉課程」、知的障害のある人であれば「福祉的支援課程」といった具合です。

 

これまでは主に再犯の可能性だけで分類していたのですが、今後は年齢、障害の有無、薬物依存の程度など、さまざまな要素を総合的に判断して処遇内容を決めることになります。

今回、以下の新しい過程が設けられ、それらを含めた24の過程の中から特に必要性が高い過程が1つ指定されることとなります。

 

新たに設けられた処遇過程

対象者

開放的処遇課程

開放的施設での実施が可能と見込まれる者、交通事犯集禁対象者など

短期処遇課程

刑期が6ヶ月に満たない者

依存症回復処遇課程

薬物の使用歴があり、依存からの回復のための矯正に重点的に取り組むことが相当と認められる者

高齢福祉課程

おおむね70歳以上で、身体障害や認知症等によって自立した生活が難しい者

福祉的支援課程

知的障害もしくは発達障害のある者、またはそれらに準ずる者

福祉的支援課程

精神上の疾病・障害を持つ者であって、医療刑務所に収容する必要性はないものの自立した生活は困難な者

なぜ今改正が必要だったのか

この法改正が必要になった背景には、社会情勢の変化があります。

 

1つは「受刑者の高齢化が深刻になっている」という点です。

刑務所における70歳以上の高齢受刑者の割合は15%近くにも上り、ここ20年ほどで約3倍も増加しています。

今後も増加傾向は続くとみられていますし、そんな状況下で体力や認知機能が衰えた高齢者に若い人と同じ作業を強制することには限界があります。

 

また「再犯率の高さ」も大きな課題です。

再犯者率は50%近くもあり、従来の処遇方法では十分な効果が得られているとはいえない状況にあったのです。

 

そのほかにも、「薬物犯罪や精神的な問題を抱える受刑者の増加」もあって、単純な作業だけでは根本的な解決にならないケースが増えていました。

特に薬物依存の再犯率は高く、これまでどおりの単純作業を中心とする処遇では再犯防止および社会復帰が難しいケースが多いとされています。

期待される効果と今後の展望

この改正により、いくつかの効果が期待されています。

 

特に重視されているのは再犯率の低下です。

一人ひとりの問題に応じた処遇を行うことで、根本的な問題の解決が図られ、社会復帰後の再犯防止につながると考えられています。

また、高齢者や障害者、薬物依存者など、特別な配慮が必要な人への対応が充実することで、これまで十分な支援を受けられなかった人たちの社会復帰がより円滑になることも期待されています。

 

拘禁刑の導入は、「罰を与える」ことから「立ち直りを支援する」ことへと方向性を変えることになった重大な改正といえるでしょう。

この新しい制度がどのような成果を上げるか、今後の運用が注目されます。

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Lawyer弁護士紹介

河野 哲(こおの さとる)

福井弁護士会(登録番号50544)河野 哲(こおの さとる)

官公庁及び上場企業での勤務経験があり、企業勤務時に使命感を抱き弁護士を志した異色の弁護士です。既成概念にとらわれない柔軟な発想と「弁護士はサービス業」というご依頼者様目線の業務を心掛けています。

経歴

  • 京都大学水産学科、京都大学ロースクール卒。
  • リクルート、京都市役所、日本輸送機(現三菱ロジスネクスト)などでの勤務を経て、2014年弁護士登録。
  • 奈良県の法律事務所、福井県のさいわい法律事務所を経て、二の宮法律事務所設立。

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