公正証書遺言でも相続でもめることはある?
公正証書遺言は、信頼性が高く無効になりにくい遺言方法ですが、それでも、残された遺族の中でトラブルになることがあります。
今回は、公正証書遺言でもめる場合にはどのようなケースがあるのか、法的な観点から解説していきます。ぜひ最後までお読みください。
公正証書遺言が無効となる場合
遺言書が無効であると確定された場合には、遺産の分配について見直すこともできます。
ここでは、公正証書遺言が無効になる5つの代表的な事例についてご紹介します。
遺留分を侵害している場合
まず、最も多いトラブルは、「遺留分」をめぐる争いです。
「遺留分」とは、相続人に認められる「最低限の相続分」であり、遺言であっても遺留分を変更したり無効にしたりすることはできません。
そのため、遺言で定められた相続の分配が相続人の遺留分を侵害する場合、侵害された相続人は「遺留分侵害額請求権」を行使することができます。
遺言能力が認められない場合
二つ目に「遺言能力が認められない場合」が挙げられます。
この「遺言能力」とは、遺言の意味や効果を理解する能力を指します。
遺言作成時、遺言者が重度の認知症や精神障害を患っているなど、判断能力を欠いていると判断された場合には、遺言が無効となる可能性があります。
近年、認知症を患っている高齢者は増加傾向にあり、この遺言能力の有無について争われる事例が増加していることも指摘されています。
また、遺言能力の有無の審査は、裁判で無効になるケースが最も多いものとされているため、特に注意が必要となるでしょう。
実際に、平成21年には、一審判決では遺言が有効であると判断されたものの、のちの控訴審において一審の判決が取り消され、遺言は無効であると判決された事例があります。
この背景には、遺言者が日常生活において妄想や物忘れなどの行動を繰り返し、診療した病院においてもアルツハイマー型認知症を診断されていたことなどから、「自己の財産状況を把握し、その処分について決定することができなくなっていたと認めるのが相当である。」と判断されたことが挙げられます。
このように、遺言が有効であるか無効であるかについては、遺言者の遺言能力について確認する必要があると言えます。
また、確認方法としては、判例にも出てきているように、遺言作成時の病院の診療記録や看護記録などで確認することができると言えます。
こうした診療記録は開示請求できることから、必要な場合は病院などに問い合わせてみてください。
口授を欠いていた場合
三つ目に「口授」を欠いていた場合が挙げられます。
「口授」とは、遺言者が公証人に遺言の内容を口頭で伝えることを指します。
公正証書遺言が作成される場合、法律的には、まず遺言者が公証人に遺言の内容を口頭で伝え、公証人がその内容を紙に書き出します。
その後、公証人が遺言者の前で遺言書を読んで確認し、公証人が遺言書に不備がないことを確認します。
近年、遺言者が事前に公証人と内容を打ち合わせたり、第三者が代弁したりして、内容を確定させることが多いとされています。
しかし、打ち合わせの段階で第三者が主体となって遺言の内容を決めていたとしても、遺言者が「はい」と答えることができれば、作成当日に遺言の内容を理解していなくても、遺言書を作成することができるのです。
これが、遺言者に認知症の兆候が見られるなど適切な「口授」を欠いていたと判断された場合、公正証書遺言が無効となる可能性があります。
実際に、昭和51年には「遺言者が、公正証書によって遺言をするにあたり、公証人の質問に対し言語をもつて陳述することなく単に肯定又は否定の挙動を示したにすぎないときには、民法九六九条二号にいう口授があつたものとはいえない」と、口授がないことを理由として遺書が無効となった判例が存在しています。
また、平成20年にも、「遺言者が公証人と手を握り、公証人による読み聞かせに対し手を握り返したに過ぎない」と、口授がないことで遺書を無効なものとみなす裁判所の見解が存在しています。
証人が不適格である場合
四つ目は、証人が不適格であると判断された場合です。
まず、公正証書遺言を作成する際には、二名以上の証人が必要となります。
しかし、未成年者、推定相続人やその家族、財産を譲り受ける人とその家族、公証人の家族や四親等以内の親族、公証役場の職員、公証人に雇われた人が証人となっていた場合は、公正証書遺言が無効となることがあります。
つまり、誰が証人であるかを確認することは非常に重要であると言えます。
遺言内容に錯誤がある場合
最後に、真意と遺言の内容に錯誤があった場合が挙げられます。
遺言者の真意と遺言の内容が異なる場合、その遺言の内容は無効となります。
この「錯誤」には、誤解や勘違いと捉えられるものも含まれます。
具体的には、書き間違いや言い間違いなどの表記に錯誤がみられる場合、考えや動機に錯誤が感じられる場合もこれに当てはまります。
このような錯誤が見られた場合には、公正証書遺言は無効とされることがあります。
相続問題は二の宮法律事務所におまかせください
公正証書遺言は法的な信頼性の高い遺言書ですが、相続でもめる可能性はあります。
まずはどのようなリスクがあるのかをしっかり理解して、問題やトラブルの発生しない公正証書遺言の作成が必要になると言えます。
遺言の作成方法などを含め相続問題でお悩みの方は、二の宮法律事務所までお気軽にご相談ください。
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福井弁護士会(登録番号50544)河野 哲(こおの さとる)
官公庁及び上場企業での勤務経験があり、企業勤務時に使命感を抱き弁護士を志した異色の弁護士です。既成概念にとらわれない柔軟な発想と「弁護士はサービス業」というご依頼者様目線の業務を心掛けています。
経歴
- 京都大学水産学科、京都大学ロースクール卒。
- リクルート、京都市役所、日本輸送機(現三菱ロジスネクスト)などでの勤務を経て、2014年弁護士登録。
- 奈良県の法律事務所、福井県のさいわい法律事務所を経て、二の宮法律事務所設立。
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